SHISEIDO THE TABLES

【REPORT#01】季節の一瞬をとじこめた『ボタニカルソーダ』が生まれた場所を訪ねて。<後編>

【REPORT#01】季節の一瞬をとじこめた『ボタニカルソーダ』が生まれた場所を訪ねて。<前編>はこちら

季節の香りをそのまま移すシロップづくり

シロップの作り方は、沸騰した水に砂糖を入れて、そこにキレイに水洗いした花びらをいれたら火を消し、蓋をして5分。花びらの量や浸す時間はそれぞれの花によって調整。えぐみや渋みがでないようします。

難しい工程はありませんが、ごみや虫が入らないよう、何度か水を換えながら花びらを水洗いする工程は丁寧に行います。最初に洗う水の中に白ワインを少し入れておくと、花びらにアルコール分が浸透して香りが抜けにくくなるそうです。
通常は工房でシロップづくりを行いますが、この日は井上さんのご自宅で作業をしていただきました。

「さあ、もういいでしょう」

花びらをいれて火を消したあと、5分たって蓋を開けたとたん、桜の香りがふわーり。さきほどまでは、香りなんてまったくしなかったにもかかわらず、漂い始めた香りに、思わず感嘆の声をあげました。

鍋のなかのまだ温かい液体をすくって味見をすると、口の中に香りが弾け飛びます。これはたしかに桜餅などで親しんでいる桜の香りです。桜餅で食べる桜は、塩漬けだからしょっぱいですが、このシロップは甘さのなかに桜が香ります。

実際に花が咲いているときはあまり感じるこのない桜の香りですが、こうしてシロップになると、しっかり感じることができる。ちょっとした魔法のようでもあります。

「咲いたばかりの時期の花を収穫して、すぐにシロップにしたからここまで香ります。これがあと数日遅かったり、収穫してしばらく時間をおいてしまったりすると、これほど香らないんです。シロップもエディブルフラワーも、最も重要なのは鮮度。だから大量生産はできないし、取引先もそれほど多くはもっていないんです」

井上さんは、エディブルフラワーやハーブも注文を受けてから収穫します。その後すぐに出荷すれば、その日の夕方には東京のフレンチレストランやバーに新鮮な状態の「おいしい花」が届けられるからです。

自然の状態で育てられたものだからこそ、環境そのものが味わえる

鮮度とともに井上さんがこだわっているのは「自然のままの状態」であること。鴨川で花をつくり始めたときは、休耕田を整備して数種類の植物の種を巻き、雑草を抜かない「野原」のような場所で超自然農法をしていました。

「僕、土が見える畑って好きじゃないんですよ。だって、見渡すかぎり土って不自然だと思いません? 自然界にそういう状態ってないじゃないですか。同じ場所でひとつの作物だけ植えるのも人間の作業効率を考えてのこと。スプラウトを水耕栽培するのも同じ。でも僕は自然の状態であることが好き。季節をはずした栽培はしたくないですし」

イノシシなどの野生動物の被害や大雨の影響で注文が追いつかなかったため、今年からは借り手を探していたハウスがあったので、ハーブの栽培を開始。もちろん、ハウスであっても化学肥料や農薬は使いません。種から土で育て、年間で100種類近くのハーブを栽培する予定です。今年から本格始動する江口宏志さん代表の「mitosaya大多喜薬草園蒸留所」でのフルーツブランデーづくりにも参加。材料となる果樹も育てているので、今後がどうなるか楽しみです。

ゆくゆくはすべてを「山」で育てるのが理想形。
「もうすでにおもしろい木々を山に植えているんですよ。落ち着いたら、山の中の母屋や東屋も修理して、来てもらった人にごはんを食べてもらえるような場所をつくれるといいなと思っています。10年後には、もっといい場所になっていると思います」

こうした思いの込められた場所にしっかりと根を張り、風を受け、太陽の日差しを浴びながら咲かせた花からつくるシロップだからこそ、『ボタニカルソーダ』からは花の香りとともに、この場所そのものである自然の生命力も感じることができるのでしょう。

SHISEIDO THE TABLESは、井上さんが自然を移しとったシロップが味わえる数少ない場所。みなさんも『ボタニカルソーダ』で季節のうつろい、自然の生命力を感じてみませんか。

取材・文/岡田 カーヤ、写真/浦川 良将


【プロフィール】
井上隆太郎/GRAND ROYAL green (エディブルフラワーとハーブの農家)
ウィンドウディスプレイやイベントでの活けこみ、装花やガーデンデザインを本職とするフローリストとして出発し、2014年から千葉県鴨川市の里山を拠点に、完全自然農法でハーブ&エディブルフラワーを生産する。2018年春から千葉県大多喜でフルーツブランデーの蒸留所を作るプロジェクトに参画

関連イベント 4月19日(木)開催「五季膳の会~新緑の季節~」

季節をあじわう古来種野菜の一汁三菜「五季膳」を、SHISEIDO THE TABLESの「FOODS」に関わるかたがたの物語に耳を傾けながらあじわうイベント「五季膳の会」。
4月19日(木)開催の新緑の季節の回は、井上さんをゲストにお迎えし、エディブルフラワーやハーブのおもしろさ、花やハーブとともにある暮らし、フルーツブランデーづくりなどについて語っていただきます。ハーブや花のシロップ数種をブレンドしてつくった「五季膳の会~新緑の季節~」限定「ボタニカルソーダ」とともに、「花を味わう」ことで広がる新しい感覚をご体験ください。

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今なら若干の空席もございます(4月17日現在)。

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