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【SHISEIDO THE STORE ウィンドウギャラリー】時代を越えてその美を伝える、桜の写真のインスタレーション

SHISEIDO THE STOREが、現代美術家とともに作る1階ウィンドウギャラリー。桜の季節の到来とともに、日本を代表する写真家である東松照明(1930年〜2012年)による桜の写真を用いたインスタレーション「さくら・桜・サクラ」が始まった。1979年から89年にかけて行われた、東松の桜の撮影に同行した東松泰子に、当時のエピソードについて聞いた。

都会から山村の桜まで、困難を極めた桜の撮影。

街で咲き始めた桜に呼応するように、3月中旬からSHISEIDO THE STORでは桜の写真のインスタレーションが始まった。東松照明が、1990年に発表した写真集『さくら・桜・サクラ』を元にしたものだ。
東松照明は1930年に愛知県名古屋で生まれた。大学卒業後、岩波写真文庫のカメラスタッフを経て、1956年からフリーランスの写真家として活動を始める。戦後の日本社会に鋭い眼を向け、被爆地である長崎や米軍の占領地であった沖縄をテーマに作品を発表した。そんな中、東松が桜を撮ることを考えたのは1977年のことだ。東松の妻であり、桜の撮影時はアシスタントとして撮影に同行した東松泰子さんは、当時のことを次のように振り返る。
「東松は1972年にまだアメリカの占領下であった沖縄に移住しましたが、73年に再び拠点を東京に移し、74年には森山(大道)さんたちとワークショップ写真学校を開講しました。私はそこに生徒として通い、東松に出会ったのですが、桜を撮影するための事前調査を頼まれました」。
東松に依頼された日本各地の天然記念物に指定されている桜を調べるために、泰子さんは文化庁から村役場まで問い合わせを行った。
「まだ携帯電話もインターネットもなかった時代です。桜の所在地を教えてもらうためにまずは手紙を書くところから始まって。時間がかかりましたね。一度天然記念物指定を受けると、枯れてもリストには残るため、現地に電話をし、状況を確認してから訪ねて行きました」。

中央通り右側には、弘前城のお堀に浮かぶ桜の花びらの写真を用いたインスタレーションが設置されている。

病を押して撮影に臨んだ、桜への執着。

撮影は、毎年桜の時期が訪れると行われ、北は北海道まで及んだ。東松が好んだのは七、八分咲の桜で、泰子さんは一本一本桜の状況を電話で確認したという。
「桜の花の蕾を食べる鷽(うそ)という鳥がいて、電話で聞いて見たら今年は鷽に全部食べられてダメだよと言われたこともありました(笑)。後で気がついたことですが、天然記念物指定というのは行き先を決めるポイントで、そこに向かう道のりに咲いている桜を撮ることも東松の狙いでした。その土地に咲いている名も無い桜を探しながら、車で各地を旅したものです。東松には桜を撮るときの条件があって、まず天気が良いこと、そして一番光がきれいな朝の時間帯に撮ることでした。毎日5時に起きて車で移動しながら撮影し、昼間は光が良くないのでロケハンを行い、そして夕方の光のもと再び撮影を開始するという日々の繰り返しでした」。
 泰子さんが「最も困難な撮影だった」と振り返る桜の撮影には、東松の桜を撮ることへの執着も感じられたという。
「東松は1986年に心臓のバイパス手術を行いました。11時間に及んだ大手術で、生死の境を彷徨いました。退院してからは、千葉に東松本人が設計した家に移り、療養中は撮影を中断しましたが、88年には再び桜を撮りに向かいます。まだ完成するには至らないと思うところがあったのでしょう。撮影は89年まで続きました」。

中央通り左側には新宿御苑に咲いた艶やかな「サトザクラ」の写真。四方を鏡張りにし設置しているため、万華鏡のように見える。

東松の桜の写真が映し出す、ひと、こと、もの。

写真集『さくら・桜・サクラ』には、桜とそれを取り巻く人や物事が写されている。そこには美しい桜のピクトレスクな景色だけでなく、人気のない花見会場や酔い潰れて眠る人、さらには打ち捨てられた家や車など、人が桜を撮る際に避けようとする風景も収められている。
「東松の目に合った桜を撮ったのだと思います。独自の視点がありますから。その時代の事象も一緒に捉えていますが、逆に言えば、桜にはそういう要素が伴うので撮影したのかもしれません」
 「SHISEIDO THE STORE」で行われている「さくら・桜・サクラ」のインスタレーションでは、中央通り側に新宿御苑の「サトザクラ」と弘前城のお堀の水面に浮かぶ「散花」が展示されている。四方が鏡張りのボックスに収められた二つの写真には、覗き込む人や街の姿も映り込み、桜をめぐる現在の事象が映し出される。古来から日本人にとって特別な存在であり、愛されてきた桜。世の中がいかに移り変われど、桜の美しさは変わらない。東松の桜は、そのことを改めて思い起こさせる。

花椿通りに面した展示では、東松の桜についての言葉とともに約40点の写真が上映される。

PHOTO:Nacasa & Partners Inc.
インタビュアー:石田潤

東松照明(とうまつ しょうめい)

1930年–2012年。戦後の日本を代表する写真家。愛知大学経済学部を卒業後上京し、岩波写真文庫でカメラスタッフを経て、フリーランスとなる。1950年代から数々の作品を発表し、近年の写真家に多大な影響を与えた。主な個展に「Sakura and Plastics」メトロポリタン美術館(1992年)、「Shomei Tomatsu: Skin of the Nation」サンフランシスコ近代美術館(2004年)、「東松照明:Tokyo曼陀羅」東京都写真美術館(2007年)、「時を削る」長崎県美術館(2010年)、「写真家:東松照明全仕事」名古屋市美術館(2011年)、「Shomei Tomatsu: Island Life」シカゴ美術館(2013年)など、また今年2020年の6月にパリのヨーロッパ写真美術館にて森山大道氏との2人展が開催される。

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