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【SHISEIDO THE STORE ウィンドウギャラリー】世界の繋がりを、光の明滅で現す装置

SHISEIDO THE STOREが現代美術家とともに作る1階ウィンドウギャラリー。志水児王が仕掛けた、世界の繋がりを可視化する装置とは?

SHISEIDO THE STOREウィンドウギャラリーで、その第4弾となる展示がスタートした。「火」をテーマとしたインスタレーションを試みたのは、志水児王だ。落ち着いた雰囲気の銀座中央通りを歩いていると、突如光が明滅する。志水が仕掛けたのは、ツイッター上に流れるある二つの言葉に反応し、光が瞬く装置である。

ツイッターと連動し光を放つインスタレーション

志水が選んだ二つの言葉とは、「太陽」と「月」だ。日本語、英語、中国語、ロシア語、アラビア語、ヒンドゥー語、スペイン語、ラテン語の8つの言語で設定し、世界のどこかでこのキーワードが呟かれると、中央通りのウィンドウ内に設置された2つの六角形の装置が光を放つ。こうしたツイッター上の言葉と連動して光を発するというインスタレーションを、志水は過去にも発表している。
「ツイッターで呟かれる言葉を読むだけでも作品として成立しますが、光の明滅に置き換えることで、言語情報を“量”として視覚的に表現することを考えました」と志水は言う。「ツイッター上では、次から次へと膨大な言葉が流れてゆきますが、特定の言葉が呟かれると装置が動き出し、光の点滅の度合によって、その言葉が使われる頻度と量が表されるのです」
ツイッターと連動した作品シリーズの技術面をサポートするのが、志水が過去に参加したレーベルの元メンバーでもある飯田博之だ。飯田は作品のアイデアが生まれた時のことを振り返る。
「最初は、ある友人に関する記事がヤフー検索のトップにランクインしたのを、志水が見たことから始まりました。街中で人々が独り言のように呟く言葉が、ツイッターというフォーマットに集約されることによって、人間の集合的無意識の不思議さに気づいたわけです。志水から、独自に設定したキーワードをトリガーにして、何か起こるようにできないかという相談を受け、ツイッターと連動した装置へと辿り着きました」

花椿通り側の展示ではツイッター上に現れる「太陽」と「月」の言葉が入ったログが流れる。

今回はキーワードとして「太陽」と「月」を選んだ。
「コロナ禍を受けて、パンデミックや生と死という言葉を使った実験も行いました」と志水は述べる。ツイッター上で話題になっているキーワードを設定すると、光は連続光となることもあるという。
「ツイッターは直接的な反応の起こるメディアなので、逆にもう少し抽象的な言葉を探そうと思いました。テーマである”火”との関連で、最終的に浮かび上がってきたのが太陽と月でした。太陽と月は、人類がさまざまな局面を迎えても、何十億年と変わらず存在し続けています。そして私たち生命の進化に深く関わっているものでもあります」
「太陽」と「月」に反応する二つの装置は、双方とも昼夜問わず、同じような頻度、タイミングで絶え間なく点滅し続けている。しかしこれは予想外の出来事だともいう。
「以前に試みたキーワードでは、片方が瞬き続け、もう片方はたまに光るというものもありました。8つの言語なので全世界を網羅しているとは言えませんが、ほぼ丸い地球上のどこかで常にこの二つの言葉は呟かれているのです」
 光を放つ装置の形状は、ベンゼン環やハニカム構造、あるいは雪の結晶など化学や自然界で多く見られる六角形が選ばれた。
「六角形は情緒的に中庸な形でもあります。人の心の問題と原子、分子、自然界の接点になっている形だと考えました」と飯田は述べる。

今回初めて制作した六角形の装置。人のいなくなった夜間も光を発ち続ける。

志水はこれまで光を始め、音や振動など物理世界を構成する微細な要素を表現素材とし、作品を制作してきた。インタビューの最後に、なぜこうした要素に着目するかを尋ねると、志水は次のように語り始めた。
「学生時代は油絵を描いていましたが、自分の感情や情念が画面に極力存在しないような方法を常に模索していました」。
 現在につながる作品制作を始めたのは25歳ぐらいの頃だという。
「起こっていても気がつかないでいるようなことを作品にする。作品と言っても、あまり”作品”という感じではなくて、事実が抽象化しただけの状態で、極力手を加えない方がリアルに思えました」。
自分を消すことで、浮かび上がってきた集合としての個の意識。地球のどこかで、誰かは目覚め、呟き、そしてその営みはこの場所に光として現れる。ツイッターは世界を一つに繋ぐメディアであり、志水が仕掛けた光の装置はそのことを可視化するものでもあるのだ。

PHOTO:Nacasa & Partners Inc.
インタビュアー:石田潤

志水児王

東京生まれ。広島県・埼玉県在住。東京藝術大学美術学部大学院修了。1994~2006年、レーベル「WrK」に参加。2008年度文化庁新進芸術家海外研修制度により、2008-2010年コペンハーゲン在住。広島市立大学芸術学部准教授。音や光、振動など物理世界を構成する微細な要素を表現素材とし、それらが引き起こす現象とその知覚、運動と要素の発生、芸術と自然科学との関係などを実証論的なアプローチで表現する作家です。主な展覧会に、「六本木クロッシング」森美術館(東京/2004)、「釜山ビエンナーレ2008」釜山市立近代美術館(釜山/2008)、「日本のサウンドアート」ロスキレ現代美術館(コペンハーゲン/2011)、「オープンスペース2014」NTTインターコミュニケーションセンター[ICC](東京/2014-2015)、「Re-actions」三菱地所アルティアム(福岡/2017)、 「第21回文化庁メディア芸術際」国立新美術館(東京/2018)、 「対馬アートファンタジア」(長崎/2018)「瀬戸内国際芸術祭2019」(香川/2019)などに参加している。

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